鑑定書が裁判所に届いたが、それを弁論に上程するのは「提示」なのか「顕出」なのか「結果陳述」なのか。言葉の問題ではあるが、知らないと迷うところである。
言葉だけであればどうであろうが問題はなかろうが、例えば、当事者が「鑑定書の結果に納得できないので、援用しない」と言いだした場合は、どうしたらいいのだろうか。
本稿では、この辺りの問題について、整理してみたい。
1 提示とは、文書提出命令及び送付嘱託により提出され送付された文書等並びに自庁保管記録を、裁判所(官)が弁論期日又は準備手続期日において、その申立人に対して示す行為である。新法のもとでは、「弁論期日又は弁論準備期日」ということになろう。
2 「提示」されるべきものは、(1)文書提出命令(219条以下)によって裁判所に提出された文書、(2)送付嘱託(226条)によって送付を受けた文書、(3)受訴裁判所(が属する広義の裁判所)が保管する他の事件の記録、の3つである。
3 送付嘱託等で取り寄せた文書は、当然に証拠となるものではない。当該文書のうち、必要と思われるものについて、当事者が改めて書証として提出しなければならない。(「菊井=村松2(全訂)」608・636頁)
したがって、「提示」は、単に当事者に証拠申出をする機会を与えるための事実上の行為に過ぎない(条文の文言から見ると、送付嘱託等の申立てそのものが書証申出の方法であり、改めて書証として提出する必要はない、と考えるのが素直である。しかし、実務では、送付嘱託等は準備行為であり、当事者が書証として提出しなかった部分は証拠とはならないと扱われている。この辺は、「注釈民事訴訟法(7)」44〜45頁、141頁が詳しい。また、木村愛一郎「『提示』、『顕出』及び『結果陳述』の各記載の異同について」書研所報37号109頁以下が分かりやすい)。
4 送付された文書等は、いずれは提出者に返還すべきものであるから、弁論で提示された後も、訴訟記録の一部となるものではなく、民事保管物として保管されるものである。したがって、91条による閲覧・謄写の対象とならない。送付嘱託の申立人が送付文書等を閲覧・謄写するのは、219条・226条を根拠として認められるものである。(「菊井=村松1(全訂・補訂版)」998頁、「注釈民事訴訟法(3)」421頁)
この問題は、市川鋭男他・全国書協会報12号19頁以下に詳しい。
結論だけ書くと、送付嘱託等では、前記のとおり、改めて送付文書を謄写して書証として提出して初めてその目的を達する。したがって、219条・226条の申立て及びこれに対する採用の裁判は、閲覧請求権を内蔵しているものと見るべきである。
また、送付嘱託等の申立てをしていない相手方に対しては、閲覧請求権は認められない。積極的に行為を求めなかったのであるから、閲覧の可否について取扱上の差別があっても不都合ではないからである(もっとも、ほとんどの庁で、送付嘱託等の申立てをしていない当事者にも閲覧を許しているようである)。また、第三者が閲覧請求できないのは当然である。
5 提示の有無は、証人等目録の「備考」欄に記載する。
文書提出命令に基づいて文書が提出されたときは、「○・○・○ 提出」と日付をメモ的に記載をし、弁論に上程したときには「第○回弁論 提示」と記載する。
送付嘱託を実施したときは、「○・○・○ 嘱託」と記載し、送付を受けたときは「○・○・○ 到着」と記載する。写しが送付されてきた場合は、写しを第三分類に編てつした上で「○・○・○ 写し到着」と記載し、送付できない旨嘱託先から回答があった場合は、「○・○・○ 送付できない旨の回答あり」等と記載する。弁論に上程した場合、証人等目録の「備考」欄に「第○回弁論 提示」と記載する。
記録提示の場合は、弁論に上程したときに「第○回弁論 提示」と記載する。
6 なお、「提示」も、以前は「顕出」と呼ばれ、記載されていたようである。それが、昭和40年代半ばころから「民事実務講義案」の記述が改められ、「提示」という呼び方が一般化したらしい。(前記・木村論文114〜115頁)
直ちに証拠資料となる「顕出」「結果陳述」と区別するためとのことである。
1 顕出とは、裁判所が、書面尋問の陳述書、調査嘱託の回答書等、自己の保管に係る期日外証拠調べの結果を表象する書面につき、これらの証拠調べの結果に証拠資料としての資格を得させ、これに対する意見陳述の機会を当事者に与えるために、口頭弁論に上程する行為である。
2 「顕出」されるべきものは、(1)調査嘱託回答書(186条)、(2)書面尋問(205条、規則124条)による回答書、の2つである。
なお、釈明処分としての検証調書・鑑定書・調査嘱託回答書(151条)は、証拠資料となるものではないが、弁論の全趣旨として斟酌され得るものである。したがって、弁論に上程する必要があり、その場合、(準備的)口頭弁論調書の「弁論の要領」又は弁論準備手続調書の「当事者の陳述等」欄に、「裁判官 釈明処分として実施した調査嘱託に対する○○から提出の回答書顕出」等と記載する。当事者が謄写して書証として提出した場合は、書証として証拠資料となるのは勿論である。
3 調査嘱託は、裁判所が弁論に「顕出」(判決文では「提示」という用語を用いている)すれば、当事者の援用がなくても、当然に証拠資料となる(最高裁判決昭和45年3月26日民集24巻3号165頁)。
証人等目録の「備考」欄に、「○・○・○ 嘱託」「○・○・○ 到着」とメモ的に記載した上、弁論に上程した場合は「第○回弁論 顕出」と記載する。
4 書面尋問は、以前は簡裁でのみ認められていた(旧358条の3)ものが、民訴法改正により一般に行えるようになったものである。
証人等目録の「備考」欄に、「○・○・○ 尋問事項書等送付」「○・○・○ 回答書提出」とメモ的に記載した上、弁論に上程した場合は「第○回弁論 顕出」と記載する。
1 結果陳述とは、当事者申出の証拠方法が口頭弁論期日外で取り調べられた場合に、その証拠調べの結果を、当事者が口頭弁論に上程(報告的陳述)することである。
2 「結果陳述」されるべきものは、一般に、(1)受訴裁判所が期日外に実施した証拠調べ(185条1項前段)の結果、(2)受命裁判官又は受託裁判官による証拠調べ(185条1項後段)の結果、(3)証拠保全(234条)の調書、(4)書面鑑定(215条)における鑑定書、の4つである。
結果陳述があった場合は、証人等目録の「備考」欄に「第○回弁論 結果陳述」と記載する。
一方当事者が結果陳述した場合であっても、証拠共通の原則によって証拠資料となるので、いずれの当事者が結果陳述したかを記載する必要はない。普通、証拠調べの申立てをした当事者に結果陳述させるが、申立当事者が欠席している場合などには、申立てをしていない相手方当事者に結果陳述させてもかまわない。
なお、鑑定書の場合、鑑定人を期日外に指定した場合は「鑑定人○○指定」と、鑑定書の提出があった場合は「○・○・○ 鑑定書提出」と、それぞれメモ的に記載しておく。
3 それでは、鑑定書等を当事者双方ともが結果陳述(援用)しない場合はどうか。
(一)最高裁判決昭和35年2月9日民集14巻1号84頁は、受託裁判官による証人尋問の結果について、原審裁判長が法廷で「提示」(調書には「顕出」と記載されているが、原判決では尋問調書について何らの判断も加えていない)したのに、出頭当事者は結果を援用せず「他に主張立証はない」と述べ、他方当事者は欠席していた、という事案である。欠席当事者が、嘱託尋問調書は重要な証拠なのに、原審がこれを援用させないまま結審したのは審理不尽であると上告していた。
最高裁は、「当事者に援用の機会を与えたにも拘わらず、当事者双方においてこれをしないときは、右援用のないまま口頭弁論を終結しても違法ではない」とした。
当事者の援用(結果陳述)がないと証拠資料とすることはできない、ということであり、弁論主義(第3原則=職権証拠調べの禁止)に基づくものとして、通説となっている、とのことである(例えば、「注解民事訴訟法(4)」456頁、「注釈民事訴訟法(6)」213〜215頁。なお、「条解民事訴訟法」973〜974頁は、当事者が援用しない場合は、裁判所が自ら結果陳述してもよい、これは当事者の陳述を欠く点で違法であるが、責問権の放棄によって対処できる、とする。結果はともかく、ずいぶん乱暴な立論であろう)。
この考えに立つと、調書の備考欄に「当事者双方援用しない」と記載することになる(川本章「書面による鑑定の結果を弁論に上程したところ、申請者及び相手方とも援用しないと述べた場合の調書の記載方法」全国書協会報66号25頁以下)。
(二)これに対して、「菊井=村松2(全訂)」439〜441頁は、既に証拠調べが完了している以上、証拠の申出を撤回する自由はなく、当事者に援用しない自由はない、したがって、裁判所は調書を弁論に「顕出」すれば足りる、とする。
また、この問題は、前記・木村論文が非常に分かりやすく問題を整理しているのだが、次のように書く。
「いったん証拠調べが開始された以上は、例えば、証言のうち都合のよい部分だけを採って他を捨てることを求める権利を当事者に与えるなどということは、証拠調べの本質に反することであると思われます。・・・ところで、実質的に考慮をしますと、期日外の証拠調べの結果を口頭弁論へ上程するか否かの選択をする権利を当事者に与えるということは、ちょうど、証言のうち都合のよい部分だけを採って他を捨てることを求める権利を当事者に与えることと同一に帰するものであります。このように考えますと、・・・終局的には、職権で口頭弁論に顕出し、判断の資料に供することができるものとするのが、論理的に一貫した結論なのではないでしょうか。もちろん、口頭弁論調書は期日における出来事をありのまま反映して記載するわけですから、裁判長(官)の訴訟指揮により、当事者に対して結果陳述のチャンスが付与され、現実にも、結果陳述がなされたのであれば、証人等目録の備考欄に『第○回弁論結果陳述 (印)』と記載すべきであるのは当然ですし、通常は、そのように処理されることが多いであろうと思われます。」
非常に説得力のある立論であり、私も、木村見解に賛する。
この場合、調書には、「職権により第○回弁論顕出」と記載し、メモ的に「当事者双方援用しない」と記載することになる。(前記・川本論文)