継続的給付に係る金銭債権執行事件において、申立時以降の附帯請求を請求債権とすることの可否





一 問題の所在

 「被告は、原告に対し、金100万円及びこれに対する平成8年4月1日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え」というような債務名義に基づいて、平成9年3月31日に金銭債権執行の申立てをする場合、附帯請求部分も請求債権とすることができるかどうか。

 一つの考え方としては、債務名義がそのようになっている以上は、これをそのまま請求債権とすることができる(全面肯定説)ということは当然にあり得るだろう。債務名義に表示された請求権の強制的実現という執行の目的からすると、素直な考え方だと思う。
 他方で、理論的な根拠はともかく、債権執行の請求債権は確定額でなければならないとした上で、100万円と、申立時までの遅延損害金5万円の合計額105万円を請求債権としなければならない(全面否定説)という考え方もあり得よう。

 この点、東京地裁民事執行実務研究会編著「債権執行の実務」(きんざい)134頁は、次のように書いている。
 「付帯請求の起算日、終期、利率は債務名義の記載等に従う。終期は、実務上差押命令申立日までと限定し、確定金額を記載させる取扱いが多い。東京地裁でも、終期は申立日までとし、具体的に請求金額を確定する取扱いである。終期を『支払済みまで』とした場合、債権者に対して実際に金員を支払う第三債務者の負担が大きく、また、当事者間の充当はトラブルも予想されるからである。ただし、電話加入権差押え、ゴルフ会員権差押え等、裁判所が換価手続を行う場合は、終期を『支払済みまで』としてもよい。」
 要するに、
  A 裁判所が換価手続を行う場合は「支払済みまで」でもよい
  B その他の場合は確定金額を記載する必要がある
というように、異なった扱いをしているものである(一部否定説)。


二 広島高裁岡山支部決定昭和63年1月14日判時1264号66頁

 原決定は、「支払済みまで」という付帯請求も請求債権とした給与債権の差押えの申立てについて、申立時までの遅延損害金に限定して確定金額で差押命令を発令した。裁判所が換価手続を行わないケースであるから、全面否定説又は一部否定説に従ったものであり、実務の取扱いに即した決定であるといえる。
 これに対して、本決定は、抗告を認容して、支払済みまでの遅延損害金を請求債権として認めた。全面肯定説に従った決定である。

 しかし、高裁決定であるというのに、この考え方は実務には定着しなかったようである(先に挙げた「債権執行の実務」は平成4年初版であるが、この高裁決定に触れずに簡単に前述のような実務の扱いを紹介している。)。


三 福岡高裁宮崎支部決定平成8年4月19日判時1609号117頁及福岡高裁決定平成9年6月26日判時1609号117頁

 いずれも、原決定は、「支払済みまで」という付帯請求も請求債権とした給与債権の差押えの申立てについて、発令日までの遅延損害金に限定して確定金額で差押命令を発令した。やはり、全面否定説又は一部否定説に従ったものである。
 これに対して、本決定は、いずれも、抗告を却下(宮崎支部)・棄却(福岡)した。全面否定説又は一部否定説に従ったものであり、実務の取扱いを是認した決定といえる。


四 検討

 このように、高裁段階で結論が二つに分かれてしまっており、将来、許可抗告(民執20条、民訴337条)によって最高裁の判断が示されるのを待つ、という形になっている。

 1 ただ、判例評論470号(判時1628号)36頁(山本和彦)がこの問題を整理してくれているので、これを紹介しておきたい。

 (一) 裁判所が換価手続を行う場合
 この場合、裁判所が換価・配当を行うので、配当時に具体的な遅延損害金額が確定され、それまでの間、遅延損害金額がいくらであるかというのは意味を持たない。その意味で、不動産執行や動産執行と全く同じであり、「支払済みまで」という付帯請求が請求債権となっていても、差押債権の範囲は明確だし、第三債務者側に特段の負担を負わせるものでもない。
 したがって、「支払済みまで」という付帯請求を請求債権としても何ら問題はない。

 (二) 差押債権が給与等の継続的債権である場合
 この場合、請求債権+執行費用が差押範囲となる(民執151条)ので、「支払済みまで」という請求債権であると、遅延損害金が発生する結果、日々差押範囲が拡大することになる。したがって、第三債務者は、支払の都度、自らの負担で遅延損害金の額を計算しなければならない(仮に計算を間違えて、差押債権の一部が残っているのに全額支払済みであると考えて給与等を支払ってしまうと、後日債権者から請求される危険がある。)。継続的債権の場合、複数回・長期間にわたることが少なくないことに鑑みると、この第三債務者の負担は極めて大きいといわなければならない。
 他方、債権者サイドとしては、申立時までの確定金額しか請求できないというのは不利益ではあるが、申立後の遅延損害金については、債務名義に執行文の再度付与(民執28条1項)を受けて配当要求又は二重差押をして取り立てることができる。なお、前記広島高裁岡山支部決定の解説に、否定説でも「民事執行規則145条・60条が配当手続において、計算書提出による申立後の付帯請求の補充を認めていることから、こうした扱いでも申立債権者の実害が小さい」としているが、東京地裁債権執行等手続研究会編著「債権執行の諸問題」(判例タイムズ社)34頁では、現在(平成4年?)の東京地裁では計算書の提出による追加補充を認めていない、とのことである。
 以上の利益状況に照らすと、この場合は、「支払済みまで」という付帯請求を認めるべきではない。

 なお、このことは、差押債権が「請求債権額に満ちるまで」という形で特定される一部債権である場合(預金債権の差押で多い)にも同様に当てはまる。この場合も、上限である「請求債権額」が日々拡大していくからである。

 (三) 差押債権が一個の債権全体である場合及び具体的金額で特定される一部債権である場合
 この場合、差押範囲は明確であり、(二)と異なり、第三債務者側に特段の不利益は存在しない。差押債権全額又は特定された金額を全て支払うか、供託すればよいからである。
 したがって、この場合は、(一)同様、「支払済みまで」という請求債権を肯定すべきである(なお、前記のとおり、東京地裁ではこの場合も「支払済みまで」という請求債権の立て方を許していないようである)。

 2 山本評論は、債権者・第三債務者の利益状況を的確に整理しているが、難点は、理論的な根拠に乏しいことである。
 前記「債権執行の実務」では「債権者に対して実際に金員を支払う第三債務者の負担が大きく、また、当事者間の充当はトラブルも予想されるからである。」と、前記「債権執行の諸問題」では「第三債務者の負担軽減の要請も無視できないところであ(る)」と、専ら実務的な配慮のみを根拠にしている。前記広島高裁岡山支部決定の解説でも「本決定の理論的帰結については、おそらく異論が少ないと思われるが、執行の現場においては実務を変えることに直ちに賛同し難いというのが正直なところではあるまいか」としている。
 私としては何とも結論を出せないところであるが(理論的にはともかく、実際問題として全面肯定説を採ることはできないであろう)、今後、最高裁の決定が出されるであろうことを期待したい。




民事手続法に関する研究

ゴマの研究室へ