契約解除の意思表示を内容証明郵便でしたところ、名宛人が不在のため留置期間を満了したとして差出人に還付された場合、解除の意思表示は有効に相手方に到達したといえるのか、改めて公示による意思表示等の手続をする必要があるのか。
1 郵便規則(昭和23年12月29日、通信省令34号)90条は、最初の配達の日(予め受取人が不在期間を届け出ている場合はその期間満了の日、ただし右期間が30日を超える場合は30日とする。)から10日以内に配達・交付できないものは差出人に還付すると規定している。
したがって、内容証明郵便で手紙(意思表示等)を送ったとしても、相手方には不在配達通知しか届かず、手紙そのものは郵便局で10日間保管された後差出人に送り返されてしまうという事態が生じうることになる(※現在では取扱いが変更されているようである。後記「補足」参照のこと)。
単に不在というならまだしも、悪質な債務者の場合、不在配達通知を受け取っても書留郵便をわざと取りに行かないというケースもなくはない。
2 意思表示の到達については民法97条が到達主義をとっており、また、そこにいう「到達」とは、一般取引上の観念に従い、相手方が了知しうべき状態に置かれることをいうとされている(相手方の勢力範囲内に入ったと表現されることもある。)。
例えば、大審院昭和11年2月14日民集15巻158頁は、夫への郵便物を内縁の妻が夫不在の理由で受領拒絶した場合、夫が単に不在がちであったというときは到達があったものというべきであるとし、最高裁判決昭和36年4月20日民集15巻4号744頁(同年の判例解説122ページ以下の倉田卓次解説も参照のこと。)は、会社への郵便物を、たまたま会社に遊びに来ていた代表者の娘が受領し、それを代表者の机の中に入れたというときも到達があったとする。
3 2の確立した判例を前提とすると、本問では、単に不在配達通知が郵便受けの中に入れられただけでも、その内容証明郵便自体が相手方の了知し得べき状態に置かれたと評価できるかどうか、が問われなければならないであろう。
なお、この問題は意思表示の到達の有無の他に、意思の通知(相手方を付遅滞に陥らせるため、あるいは時効中断のための催告)についても同様の問題として検討することができよう(時効中断効の意義等別の観点から議論する必要もあろうが、ここではその問題は措いておく。松久三四彦論文(判例評論347号43頁)を参照してもらいたい。)。
1 最高裁判例はないようである。
2 そこで下級審判例を見てみると、肯定判例が若干優勢なものの、否定判例も高裁判決を含めて存在する。
(一)肯定判例
東京地裁判決平成5年5月21日判タ859号195頁
東京地裁判決昭和61年5月26日判時1234号94頁(時効中断としての催告について)
大阪高裁判決昭和53年11月7日判タ375号90頁
東京地裁判決昭和43年8月19日判時548号77頁
東京高裁判決昭和27年7月31日下民3巻7号1055頁
(二)否定判例
大阪高裁判決昭和52年3月9日判時857号86頁
東京地裁判決昭和48年10月18日判時732号70頁
1 到達を肯定すべきであると考える。
問題は、前述のとおり、あくまで「一般取引上の観念に従い、相手方が了知しうべき状態に置かれ」たかどうかであるから、不在配達通知を受領している以上は、いつでもその書留郵便の内容を「了知し得べき状態」にあると評価できるからである。
実際問題として、普通郵便であれば郵便受けに入れさえすれば(現実に名宛人が受け取ったか否かを問わず)到達ありとするのに、より慎重な手段である内容証明郵便の場合は現に受け取らないとならないとするのはおかしいであろう。
2 なお、前記の否定判例の論拠について若干触れておく。
(一)いずれの判決も、名宛人は当該郵便物を受領する義務はない、ということをその理由として挙げている。
これはそのとおりであろうが、「義務がない」というのは、「了知し得べき状態」になかったとする一般取引上の観念を導き出す一要素とはいえようが、決定的な問題とはいえない。
(二)この他、大阪高裁判決では、「不在配達通知」には差出人氏名も内容物も明らかにされていないから、名宛人としては当該郵便物の内容を了知し得ない、との理由を挙げている。
これは大きな理由といえようが、前記松久論文によれば、現行の集配郵便局取扱規程の定めている不在配達通知の様式では、差出人氏名の他、一般書留か特別書留か等の郵便物種類も明らかにされており、この現行の取扱を前提とすると現在では右の論拠は当てはまらないとのことである。
一 最高裁判決平成10年6月11日裁時1221号2頁が正にこの問題を扱っているので、紹介しておく。
二 事案
1 上告人は、被上告人に対し、遺留分減殺の意思表示を記載した内容証明郵便を送付した。
被上告人は、それ以前からの遺産分割に関する交渉過程で、上告人が遺留分に基づいて権利主張する意思を有していると知っていた。そして、不在配達通知書の記載(差出人名)から、右郵便が遺産分割に関するものではないかと推測したが、多忙を理由に郵便局に郵便を取りに行かなかった。
このため、右郵便は差出人である上告人のもとに返送された。
2 本件(平成6年)当時における郵便実務の取扱いは、(1)内容証明郵便の受取人が不在で配達できなかった場合には、不在配達通知書を作成して郵便受箱等に差し入れる、(2)不在配達通知書には、郵便物の差出人名、配達日時、留置期限、郵便物の種類(普通、速達、現金書留、その他の書留等)等を記入する、(3)受取人としては、自ら郵便局に赴いて受領するほか、配達希望日、配達場所(自宅、近所、勤務先等)を指定するなど、郵便物の受取方法を選択し得る、(4)原則として、最初の配達の日から七日以内に配達も交付もできないものは、その期間経過後に差出人に還付する、というものであった。
3 原審は、現実に内容証明郵便が到達しなかったことなどを理由に、意思表示の到達を否定した。
三 最高裁は、前記36年判決を引用した上で、
A 不在配達通知の記載、従前の交渉経過からいって、上告人は内容証明郵便の内容を推知できたこと、
B 被上告人は、長期の不在など、郵便物を受領できない客観的状況になかったこと
を指摘して、意思表示の到達を肯定した(原判決破棄・差戻)。
四 最高裁判決は、結論的には正当というべきであろう。
ただ、判決文を読むと、最高裁は、Aの事情(名宛人が内容証明郵便の内容を知り得たこと)を強調しているように見える。そうすると、Aの事情が認められなかった場合はどうなるのだろうか。
普通郵便の場合との比較を重視する私の理解からすると、Aの事情が認められなくても、
A’ 不在配達通知が名宛人の勢力範囲内に入ったこと
B 名宛人が郵便物を受領できないような客観的状況がなかったこと
だけで足りると考えるものである。