主債務の時効完成後に債務を一部弁済した保証人による主債務の消滅時効の援用




※特に断らない限り、「保証」には連帯保証も含む。


一 前提の整理

 1 時効利益の放棄(民法146条)

 (一)債務者が、消滅時効完成後に債権者に対し当該債務の承認をした場合には、時効完成の事実を知らなかつたときでも、その後その時効の援用をすることは許されないと解すべきである(最高裁判決昭和41年4月20日民集20巻4号702頁(大法廷))。
 「時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当であるからである。また、かく解しても、永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由に反するものでもない。そして、この見地に立てば、前記のように、上告人は本件債務について時効が完成したのちこれを承認したというのであるから、もはや右債務について右時効の援用をすることは許されないといわざるをえない」からである。

  (二)そして、具体的にいかなる行為が、このような援用権喪失の効果を生ずると見られるか、については、「債務の承認、弁済及びこれに準ずる行為、債務支払の約定、延期の申入、減額懇請、和解や示談、強制執行に対して異議を申立てないことなど」が挙げられている(幾代通「民法総則(第二版)」青林書院・553ページ)。
 したがって、消滅時効完成後に一部弁済をした場合には、消滅時効の完成を知らなかった場合でも、もはや消滅時効の援用ができなくなる。


 2 保証債務の場合の基礎的理解

 (一)保証債務は、保証契約に基づいて保証人と債権者との間に発生するものであり、主債務とは独立した別個の債務である。
 ただし、保証債務の附従性により、主債務が消滅した場合には保証債務も消滅する。
 つまり、保証債務の消滅を考える場合には、保証債務自体の消滅と、主債務の消滅の2つの側面から考察しなければならない。

 (二)主債務者が消滅時効を援用した場合には、保証人も、主債務の時効消滅を援用して債権者の請求に対抗できる。これは当然のことであろう。

 (三)次に、保証人も民法145条の「当事者」に含まれることは争いがない。主債務者が時効を援用しているかどうかにかかわりなく、主債務の時効を援用できる(大審院判決大正4年12月11日民録21輯2051号等)。
 また、主債務者が時効利益を放棄していたとしても、これとは関わりなく、保証人は主債務の時効を援用して自己の保証債務の消滅を主張することができる(大審院判決昭和7年6月21日民集11巻1186頁等。なお、右判決は、保証人が保証債務について時効利益を放棄していても同じであるとしている。)。


二 保証人が債務承認をしている場合

 1 最高裁判決昭和44年3月20日判時557号237頁
 連帯保証人が主債務者たる法人の代表者である場合に、最高裁41年判決を援用して、「主債務の消滅時効完成後に、主債務者が当該債務を承認し、保証人が、主債務者の債務承認を知つて、保証債務を承認した場合には、保証人がその後主債務の消滅時効を援用することは信義則に照らして許されないものと解すべきである」と判示した。
 信義則という観点からいえば、そのとおりであろう。ただ、その説示は、本件の実体とズレがあるように思われる。本件では、主債務者と連帯保証人は法的には別人格であるが、実質的には同じであり、保証債務の承認だけではなく、主債務の承認も同時になされたと解釈することもできるからである。

 2 大阪高裁決定平成5年10月4日判タ832号215頁
 連帯保証人が時効完成後に一部の支払を約定して残部の免除を求めた事案で、「保証人は主債務の時効消滅後に自己の保証債務を承認したとしても、改めて主債務の消滅時効を援用することができると解するのが相当である。」とした。

 3 東京高裁判決平成7年2月14日判時1526号102頁
 連帯保証人が時効完成後に一部弁済をした事案で、「主債務の時効完成後に保証人が保証債務を履行した場合でも、主債務が時効により消滅するか否かにかかわりなく保証債務を履行するという趣旨に出たものであるときは格別、そうでなければ、保証人は、主債務の時効を援用する権利を失わないと解するのが相当である。」とした。
 なお、この判例は、時効完成前に保証人が一部弁済をしていたとしても、これは主債務の時効中断事由とはならないし、特段の事情がない限り、このことによって時効援用権は制限されないともしている。前者はは当然のことであろうし、後者は、今問題にしている時効完成後の一部弁済とパラレルに考えればたるだろう。


三 検討

 1 ここで、保証人の側から利益状況を整理してみよう。

 (一)主債務者が既に債務承認と見られる行為をしている場合(二1判例)
 この場合、保証人が保証債務の履行を拒むことができないとしても、最終的には主債務者に対して求償できる。

 (二)主債務者が既に時効を援用している場合
 この場合、保証人が保証債務の履行を拒めないとしたとき、保証人は主債務者に求償できるか。民法463条2項・443条2項は、主債務者が弁済その他の出捐をなした後に通知を怠ったために、受託保証人が善意で二重に免責行為をしたときは、受託保証人は自己の免責行為を有効とみなすことができるとする。そして、時効の援用による債務消滅は「出捐」ではないから、文言どおりであれば主債務者は通知なくして時効による債務消滅を受託保証人に対抗できることになろう
 仮に保証人が保証債務の履行を拒めないという結論になるなら、443条2項を類推適用して、主債務者に求償できるという結論を採る必要があるだろう。しかし、時効を援用した旨まで一々主債務者は保証人に通知しなければならないものであろうか(時効が完成したかどうかは保証人も独自に調査できることであって、その調査が必ずしも容易とはいえない主債務者による弁済等と同列に論ずる必要はないと思う。)。
 結論的にいえば、この場合は保証人は求償できないと私は考える。

 (三)主債務者が未だ債務承認も時効援用もしていない場合(二2・3判例)
 主債務者が後に債務承認等をした場合は、求償できることに問題はないであろう。
 ただ、保証人が事前に通知することなく弁済してしまった場合、後に時効を援用した主債務者は、民法463条1項・443条1項により時効の完成を理由として保証人の求償に対抗することができる。そうすると、この場合は保証人は求償できないということになる。

 (四)結局、主債務者が(保証人の債務承認等の前後を問わず)債務承認をした場合は保証人は求償でき、時効を援用した場合は求償できないということになる。

 2 従来、保証人が時効完成後に債務承認した場合、それが同時に主債務の時効援用権も放棄する趣旨であったと解釈できるか、という形で議論されていたように思われる。しかし、そのような意思解釈は、保証人が時効完成を知ってなした、意思表示としての債務承認の場合の議論である。保証人が時効完成を知らずにした債務承認と見られる行為の結果時効援用権が制限される場合の議論にストレートに結びつくものではない。そして、この後者の観点から問題を立てた場合、保証人が時効完成後に債務承認と見られる行為をした場合、主債務の時効援用権も放棄されたものと債権者が信頼するのが正当で保護に値するかどうか、ということになろう(その意味で、二1・3の判例の理由付けは、専ら保証人の内心を問題とする点で失当であると思う。)。

 3 この観点からいうと、保証人が債務を負うのは後に主債務者に求償できることが前提となっていることは明らかであるから、後に主債務者に対して求償できない、あるいは求償できるかどうか不明なような状況下でなされた保証人の債務承認等は主債務の時効援用権も放棄するものと見るべきではないし、また、このような場合は後に時効が援用されないものと債権者が信頼したとしてもそれは保護に値しないといえるのではなかろうか。そして、主債務者による債務承認等がない場合には、保証人が債務承認等をしても、それが主債務の存否にかかわらず敢えて保証債務の履行にでたと見るべき特段の事情がない限り、保証人はなお主債務の時効を援用して債権者の請求を拒めると考える。

 3 要件事実的に考えてみる。

 (一)請求原因は次の二つである。
  (1)原告は主債務者に金銭を貸し渡した。
  (2)被告は(連帯)保証した。

 (二)保証債務自体の時効消滅をもって対抗する場合は、次のようになろう。
  (抗弁)
   (1)(保証債務の)時効期間の経過
   (2)(保証債務の)時効の援用の意思表示
  (再抗弁)
    時効期間経過後に保証人が一部弁済等の行為をした。
    この場合、保証人が保証債務の時効完成を知っていたことは再抗弁として必要ではないし、知らなかったことも再々抗弁とはならないことは、前掲最判昭和41年から明らかである。

 (三)これに対して、主債務の時効消滅をもって対抗する場合は、次のようになろう。
  (抗弁)
   (1)(保証債務の)時効期間の経過
   (2)(保証債務の)時効の援用の意思表示
  (再抗弁)
    A 時効期間経過後に保証人が一部弁済等の行為をした。
    B 主債務者がAに先立って債務承認等をした。
     (あるいは)保証人は主債務の存否にかかわらず敢えてAの行為にでた。
    結局、再抗弁Bがないと再抗弁としては主張自体失当になる。


(参考文献)
1 椿寿夫「時効完成後に保証債務を承認した保証人と主債務の時効援用」(私法判例リマークス1995(上)18頁)
2 山田誠一「主たる債務の時効完成後に債務を弁済した保証人による主たる債務の消滅時効の援用」(金融法務事情1428号31頁)
3 野口恵三「時効成立後に一部弁済をした連帯保証人の責任」(NBL581号64頁)。
4 幾代通「民法総則(第二版)」青林書院・553ページ等



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