Aは、平成元年1月にBとの間で期間を2年とする建物賃貸借契約を締結し、その際、CがAについて連帯保証した。その後、平成3年1月、平成5年1月、平成7年1月とA・B間で賃貸借契約の合意更新が行われたが、Cは、平成3年と平成5年の合意更新に際しては連帯保証人として契約書に署名押印したものの、平成7年の合意更新時には署名押印を求められなかったため、署名押印せずにいた。
その後、平成7年5月から平成8年4月までの1年分の賃料不払いを理由に、Bは賃貸借契約を解除したうえ、Cに対して、連帯保証契約に基づいて右賃料の支払を求めた。
これに対して、Cは、平成7年1月以降については、Cの関与なく更新されたのであるから、保証人としての責任を負わない、と主張した。
Cの責任は?
二 問題点
1 民法619条1項は、賃貸借契約の法定更新(黙示の更新)を規定し、同条2項は、「前賃貸借に付き当事者が担保を供したるときは其担保は期間の満了に因りて消滅す。但敷金は此限に在らず」と規定している。
したがって、法定更新後は、敷金を除く担保(保証も当然含む)は、当初の契約終了とともに当然に終了するから、保証人は更新後に発生した賃借人の債務については責任を負わない。これは、契約の期間を一個の条件とした保証人等に余分な負担を与えてはならないということにもとづく(新版注釈民法(15)318ページ)、とか、期間満了後の賃借人の継続使用と賃貸にがこれに異議を述べない事実だけでは、担保の延長の意思までは推定されないのである(新版注釈民法(15)732ページ)とか説明されている。。
他方、借家法2条(借地借家法26条)は、同様に法定更新について定めているが、担保に関する民法619条2項のような規定を別に設けていない。借家法(借地借家法)はいうまでもなく民法の特別法であり、特別な規定を設けていない限り民法が適用されるのであるから、民法619条2項が適用されることになりそうである。
2 なお、右は形式的には法定更新の場合であり、合意更新の場合については保証人の責任がどうなるかの規定はない。だから、法定更新の場合とは異なった扱いをしたとしても一応問題はないわけである。
しかし、合意更新の場合も、更新後保証責任を負うとすると、合意更新の際に改めて保証契約を締結(契約書に署名押印すること)をしなかった保証人が、賃借人・賃貸人という第三者間の行為によってその保証責任の期間も延長されるかのような形になってしまう点で、前述の民法619条2項の趣旨から問題が生ずるのであり、やはり、民法619条2項の趣旨からその責任の範囲が同様の形で問題とされざるを得ない(実際、同様に議論されている。)という側面がある。
本稿でも、同様の形で議論を進めていきたい。
3 ところが、後述の判例(ただし、全て東京地裁判決ではあるが。)を見てもらえば分かるとおり、更新後に生じた賃借人の債務についても保証人が責任を負うこと自体については異論がないとまでいいうるくらいの状況になっている。
そして、結論的には一応どれも首肯しうると見ていいと思うが、こうした結論は民法619条2項のもとでとりうるのだろうか。
三 検討
1 民法619条2項から出発する限り、保証人の責任については否定せざるを得ないのではなかろうか。
前述の新版注釈民法(15)732ページ(三宅正男)は、「同条(注=借家法1条の2)も担保の効力には介入しないから、賃借人の供した敷金を除き、賃借人の供したその他の担保、第三者の供した担保または保証人としての責任は、期間の満了により消滅すると考える。ただし賃借人または第三者が、法定更新を予期しただけでなく、更新後に効力を持続する意思で担保・保証を約した場合は別である。」というのは、そのとおりなのであろう。
2 しかし、保証人の責任の問題なのであるから、保証契約における保証債務の範囲の問題として考えることも可能である。民法619条2項は任意規定なのであるから、これと異なった合意をすることは十分に可能だからである。そして、1に挙げた文章の「ただし・・・」以下にあるように、結局これは当事者の意思解釈の問題といえよう。
そこで考えるに、保証人の責任を肯定する後述の判例が例外なく指摘するような、建物賃貸借契約は更新されることが当然に予定されており、保証人も当然にそのことを知っていたはずであるという点は重視していいと思う。実際のところ、当初の賃貸借契約において期間が2年とされていても、2年後に建物を明け渡すことは普通はないはずである。期間が1年とされている場合はなおのことであろう。そして、保証人としては、更新後の債務について責任を負いたくないと考えたなら、契約書にその旨を記載することも可能である(実際にそのようなことが期待できるかどうかは別であるが・・・。)。とすると、建物賃貸借契約に関する限りは、特段の事情(すなわち、契約時に反対の意思表示をしない限り)更新後も保証人が責任を負う意思で保証契約を締結したと見てよいはずである。
3 結局、更新後の債務に関する保証人の責任については、これを肯定的に解する判例を支持していいと考える。
四 補足
一般論としては以上のとおりである。
ただ、前記の事案(後述の東京地裁判決昭和62年1月29日判時1259号68頁とほぼ同じ)の処理については別個に検討すべき問題があるように思われる。つまり、当初の賃貸借契約締結後、2度にわたる合意更新に際して保証契約を改めて締結してきたというのであるから、それぞれの契約期間(2年)に限定して保証契約が締結されてきたと見る余地があるからである。右東京地裁判決は、この間の事情について、「昭和58年の更新は、外国勤務中の原告(注=賃貸人)が手紙で賃料を1万円増額して更新に応ずる旨連絡し、坂田(注=賃借人)が同額の賃料を支払ったことによって合意が成立したものと認められ、賃料増額以外の契約条件は、保証を含め全て従前通りとするのが当事者の意思に合する」「被告(注=保証人)は、昭和58年7月1日以降も坂田が本件マンションで英吾教室を経営していることを知っていたにもかかわらず、原告にも坂田にも保証しないということを申し出ていない」と認定した上で、保証人の責任を肯定しているものである。なるほど合意更新に際して保証契約を改めて締結できなかったという事情があったことは理解できるが、このような判断で、従前保証契約の更新に応じてきた保証人が納得するだろうか。結局は意思解釈の問題であるが、私には疑問のように思われる。
また、前記の事案で、3回目の合意更新に際して、従来の保証人とは違う保証人を新たに立てて契約書を作成していた場合はどうだろうか。この場合には、3回目の合意更新によって従来の保証人の責任は消滅したと考えていいと思うのだが、仮に前記東京地裁判決の考え方に従った場合、どのように説明されるのだろうか。
細かな問題のような気もするが、疑問を呈しておきたい。
なお、最高裁判決平成9年11月13日裁時1208号1頁は、この問題について、「当事者の通常の合理的意思」をもとに、更新後に生じた債務についても保証責任を認めている。妥当な判断であろう。